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~ 人類学者の徒然なる詩考と猛想 ~

ラサに棲む生き物たち [LHASA・TIBET]

ラサは富士山とほぼ同じ高さに位置しており、超・乾燥地帯でもある。

そのため、生き物にとってはあまり優しい環境とはいえないのだが、

人間が集まるような場所には、必ずいろんな生き物たちが集まってくるものである。

 

 

 

 

まずネズミ。

ラサはネズミ天国か!? と思えるほどかなり見かける。

小さいハツカネズミのようなものから、体長20cmほどの丸々太った大きなものまで、

いろいろいるようであるが、小さいやつは昔からチベットにいたものらしく、

デカイやつは中国内地から、トラックやら青蔵鉄道に乗って物資とともにやってくるようである。

このデカイのは相当のワルらしく、僧院に納めてあるお経も食べるとか。

こういった悪ネズミをよせつけないようにするため、猫を飼うお寺は多い。

 

うちの猫シロ、

デカイのは「コワくて」(笑)相手にしない・できないが、

小さいのを標的に「ネズミ狩り」をこの上ない楽しみとしている。

一月に一遍ほど、死骸を口にくわえて部屋に戻ってくるのである。

かなり喜び勇んで、堂々と、チベット製の高級絨毯のど真ん中に置き、

なにか「みゃあみゃあ」訴えているが、僕は全くの無視である。

 

日本の高級猫餌の<モンプチ>を(たまにだが)ちゃんとあげているのに、殺生なんかしやがって・・・

 

と思うのだが、トラ科の動物の衝動だから、ある意味仕方ないのかもしれない。

 

imgp4022

(逃がしたネズミを狙うシロ)

 

しかしながら、あるときは、生きたままくわえて帰ってきて、

ふとした拍子にそのネズミが牙から脱出して、

部屋のどこかに隠れてしまうこともよくある。

ネズミを寄せ付けないために、猫を飼うのがフツウなのに、

うちの猫は、わざわざネズミを部屋にかき集めているのか・・

と思うと情けなくなるのである。

 

 

つぎに紹介する生き物は、

動物ではないが、ラサで急速に増えているものである。

それは<蚊>

もちろん、夏限定であるのだが、一昨年ぐらいから(おそらくは近年ラサ史上初めて!?)

夏のラサに群生するようになったのである。

ラサも地球の他の地域と同じく、温暖化の影響を受けているせいだと思われるが、

ラサ人にとってはこの虫の突然の出現は、寝耳に水ならぬ、寝耳にブーンで、

うっとうしいこと極まりない。

上の巨大ネズミと同じく、青蔵鉄道などによってもたらされた、とよく地元で言われ、

「やっかいなものは、すべて内地から!」といったある決まり文句で、

ラサ人たちは苦笑するばかりである。

 

そして、次に紹介するラサの生き物。

これは、今住んでいる民宿の部屋ではなく、

八年ほど前、チベット大学留学生寮の自分の部屋で出遭ったもの。

 

ちょうどそのとき僕は部屋の大掃除をしており、

普段はほうっておくような場所も掃除していたのであった。

 

テレビ台を拭こうと思い、テレビを持ち上げた瞬間、それは、いた。

何かの落書きかと最初思ったそれは、微妙な厚みがあり、確かに見覚えのある

いかついカタチで、テレビとテレビ台の間にしっかりとうずくまっていたのだ。

それは―、

 

蠍。

 

なぜ・・? こんなところにサ、サソリが!??

 

部屋の中に一瞬にして広がる、シュールリアリズムのような世界・・。

 

小さいがまぎれもなく蠍・・。 おそらくはテレビの熱の温かさで

冬眠(?)していたのかもしれないが・・。

 

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(六道輪廻の地獄図に描かれる蠍)

 

早速チベット語の先生にこの「蠍事件」について話すと、

チベット大学の敷地は昔貴族がピクニックをするような野生の大自然だったので、

蠍ぐらいはいても当然だよ、と笑われた。

そしてこう付け加えられた。

「蠍はツガイでいるもの、一匹いたのだったら、もう一匹いるはずだよ」と。

それから数日間、あまりよく眠れなかったのは言うまでもない(苦笑)。

 

蠍は、チベットの民間信仰では、

忌み嫌うべき生き物とされ、魔除けなどとして家の門などに描かれることも多い。

チベット語でディクパ・ラツァというが、「ディクパ」は「罪」の意味である。

また、聖者グルリンポチェの「ディク・ズプ」とよばれる印形は、

「蠍の型」をしていると言われ、邪悪な存在に対してそれは向けられるのである。

 

はたして蠍が部屋の中で見つかったことは、不吉なことだったのかどうなのか・・。

今もよく分からないが、ラサで蠍を見たのはこれっきりである。

 

 

そして、最後に紹介したいラサのこの生き物は極めつけである。

実は、僕はもちろん、僕の知り合い・友達のチベット人も実際に見たことはないのだが、

存在する―、と深く信じられている動物である。

その名は<チュ・スィン>

直訳すると、「水の魔」

 

辞書や人によっては、「ワニ」などと訳されることもあるのだが、

どうやらこの生き物の正体はそんな単純ではないようだ。

 

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(今住んでいる民宿の壁に描かれているチュスィン)

 

象のように長い鼻をもち、牙もあり、水生の動物であるこのチュスィンは、

確かにワニと少し似ているところもあるが、どうやらその実態は、

インド・チベット仏教の神話の言説の中で生きながらえている生き物のようである。

このチュスィンは、ラサ北西の沼地に棲んでいると信じられ、

「昔はよく見られた」と人々は言う。

 

上の写真にあるのは、チュスィンの「変型バージョン」であり、

なんとも器用なことに白ほら貝と結合している。

このチュスィンとほら貝の奇態な結合は、<勝利>を表象する文様として、

チベットの伝統家屋などに描かれることがよくある。

どういった論理構造で勝利を表すようになるのかの仮説は、またべつの機会に試みたい。

 

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(チュスィンが棲んでいると言われている、ラサ北西に広がる沼地)

 

 

以上見てきたように、確かに人間の集まるような場所には、

いろんな生き物たちが集まってくるのである。

人間の食生活・経済活動の営みのなかで、それに寄生するように、

生きながらえる生き物もあれば、

人間の想像力の中にその生命力を得ているような不思議な生き物もいるのである。

 

上に紹介したネズミや蚊などは、極めて現世的な動物として認識される一方、

チュスィンは人々の精神世界の中に生き、

そして蠍は、どうやら現世的なものと精神的なものの間の

<境界>を行き来するような生き物として、チベット人は把握しているように思える。

 

いつかちゃんと、人類学的にいろいろ考察してみたい。

 

Daisuke Murakami

 

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2月10日

(ラサの)天気: ほぼ快晴

(ラサの)気温: -5~12度 (ほんの少しですが、暖かくなってきました)

(ラサでの)服装: 昼間は厚手のフリース、ダウンなど。 夜は、ダウン、コートなど。

晴れの日は日差しがとてもきつくなるので、日焼け対策は必須。空気は非常に乾燥しています。

この季節、雨は降ることは少ないですが、雨具は念のため持ってきたほうがいいでしょう。