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~ 人類学者の徒然なる詩考と猛想 ~

オットコ前の料理人(+秋のお知らせ)[LHASA・TIBET]

Daisuke Murakamiのチベット駐在日記

「料理のできる男はモテる」などとよくいわれたりするが、それはたぶんウソだろう。

もしそれが真実なら、とっくにこの世の中は料理の得意な男で溢れかえっているはずだ。

そうでないのは、料理ができる男=モテる、という等式は全くの神話にすぎないからだ。

(短絡論理ご容赦)

 

 

 

 

料理のできる男は、自分で料理をしたいからするだけである。

当たり前だが、それが結果("モテる")につながるかどうかは、

その男が本当にいい男かどうかに100%依存している。

 

それだけだ。

 

しかしながら、料理を生業としている男はどうなのだろう。

これは話がちょっと違ってくるように思える。

今日はそんな話を少ししてみたい。

 

時は先月の8月中旬。

ラサ近郊にあるタグイエルパ。

風光明媚な谷奥にあるこの場所は、まぎれもなく聖地中の聖地である。

それほど爽快な気の流れに満ちた、

<空間の開け>が感じられる特別な場所なのである。

ここで「イエルパツェチュ」という巡礼祭があった。

 

(タグイエルパの谷。あちこちにみえる煙は、巡礼者の焚くお香の煙。)

 

この祭に、うち(風の旅行社)のツアーグループが、

スタッフも合わせて30人ほど参加することになった。

普通こういう祭では、多くの地元の巡礼者と同じく、

昼ご飯は弁当などを持って行くのであるが、

そこはうちのチベット人現地スタッフである。

 

「30人も来るなら、キャンプ飯にしようぜ!」

 

ということになり、

キャンプ隊は、なんと前日から、このタグイエルパの場所(それは山の中腹にある)に、

でかいキャンプを張り、準備を始めたのだ。

 

ミッションは、翌日来られるお客さん30人分の昼ご飯!

 

         * * *

 

僕は残念ながら、当日はラサで留守番であったのだが、

帰ってきたお客さんの話をきくと、「料理はものすごかった」、という。

なにがすごかったのか? と聞くと、

15種類近くも用意された料理が、そのどれもこれもが非常に美味かった、

というのである。

あんな気持ちのいい場所で、あんな聖地で、食べるのはさぞ美味かろう、

ディヴァイン(神々しいほど旨い)だったのだろう、と僕は羨ましくなったが、

お客さんが喜んでくれたのはまず一番なによりだ。

 

(タグイエルパでの昼食)

 

山の中腹まで、食材やらテントやらプロパンガスを運ぶのは大変だったろうと、

スタッフの労をねぎらうお客さんもいた。

あまりスタッフを褒めたりなど、普段は全くしないうちの現地社長まで、

「ロギャは、今日は本当にいい仕事をした」、

と言っていた。

 

そのロギャとは、一体何者・・?

 

   * * *

 

タグイエルパの祭の数日前―。

ロギャ率いる「風のチベット・キャンプ隊」は、ナムツォ湖近くのダムションにいた。

大草原でキャンプをしながら、湖を散策するという風の魅惑ツアー。

このツアーグループにロギャたちは同行していたのだ。

 

お客さんは合わせて五人。

チベットに何度も来ているリピーターから、チベット初心者まで、いろいろだ。

みなさん個人参加であり、和気藹々とした、とても雰囲気のよいグループであった。

(キャンプをすると、お客さん同士とても仲良くなる。)

 

以下は、そのうちのお一人から聞いた話である。

 

キャンプでは、

お客さんたちは、地元の子供の遊牧民と遊んだり、写真を撮ったりして過ごしていたが、

そのうちの一人の若い男のお客さんが、「ちょっと散歩に行ってくる」と、出て行った。

 

(ダムションでキャンプ!)

 

しかし、すぐに帰ってくると思いきや、一時間経っても、二時間経っても帰ってこない。

おかしいなと思いつつ、彼が行った方向に目を向けても全く人影がない。

 

双眼鏡で見てみても、羊やヤクが目に入るだけで、それらしき人影はない。

はじめのうちは、「双眼鏡を使って草原の中、人を探すなんて私の人生で初めてや」などと、

冗談を言いながら探していたが、

夕陽が傾くとともに、みんなさすがに少しずつあせってきた。

 

残された四人のお客さん、ガイドを含めたスタッフ全員、

そして遊牧民の子供までをも総動員して、薄暗い遠くの地平線に目を向ける。

でも、だれもいない ―。

 

ほんとにどうしよう?

なにか大変なことが起きたのか?

誘拐されたのか? (大草原で??)

ラサ(駐在員の僕や現地社長)に一度連絡するか?

 

などと、一同が非常に心配し始めたところ、

ご本人は、キャンプから出て行った方向とは、180度全く逆の方向から帰ってきたのだ。

曰く、ずっと円を描くように、近くの小山を登りつつ、あたりの草原を一周してきたという。

 

みんなは「なんだぁ」と

一気に心配から解かれ、安心し、喜んだ。

そのとき、である。

あのロギャが、キッチン・テントからおもむろに出てきた。

 

ロギャはサングラスをかけ、

エプロンをし、片手にはおたまを持っている。

その姿が草原のなか、夕陽を浴びて浮かんでいる。

普段はほとんど口の開かない、カム男・ロギャ。

その時、その彼の口から出た言葉は、

 

「ゴハンデス、ドウゾ」。

 

(!!!!!!!!!)

 

日本語の全くできない彼が、唯一、これまで何百回も言ってきた言葉、「ゴハンデス、ドウゾ」。

そしてサングラスの下に隠れた、褐色の笑顔。

 

このシチュエーションで、この言葉に、このロギャ男に、

惚れることのない女性は、たぶん皆無であろう。

(男だってグッとくる。)

 

彼は、みんなが草原のなか、仲間を心配し安堵しの長いドラマの間、

キッチンテントの中で黙々とひとりでずっと料理をしていたのだ。

 

あまりのこのロギャの「オットコ前さ」に惚れてしまった女性のお客さんたちは、

秘かにロギャのことを「ゴルゴ」と呼び始めた。

 

そして、そのゴルゴの料理は、やはり「すごかった」という。

 

(ダムションキャンプでの朝ごはん!)

 

冒頭、

料理をする男は、必ずしもモテるわけではない、と言った。

それはそうであろう。

しかし、プロの料理人であっても家庭の料理人であっても、

「相手にちゃんとなにかしらを届けよう」として作る料理人は、全く次元が違うような気がする。

つまりは、彼(女)らの作るモノには、なにかしら贈与めいた香りがするのだ。

美味しい味とともに、その人の心や気持ち、人格までが相手の身体の中に送り届けられるのである。

 

これほど雄弁で即物的なラブレターはなかろう。

プロの料理人が「エロス」をその生業の核にしているのは、至極自然なことなのだ。

 

それにしても、

チベットのあの豊かな渓谷、そして広大な大草原・・・。

それらは、エロス=料理の、魔性的な隠し味となっていくのだ。

 

Daisuke/Murakami

 

(部屋の猫)

 

★★★ 秋のお知らせ ★★★

 

今秋、東北・金華山の復興ワークキャンプ(11月9・10日)にスタッフとして参加させて頂くことになりました!東北の民俗学者・結城登美雄氏や赤坂憲雄氏、そして羽黒修験道の先達・星野文紘氏をお招きしての大イベントです。東北と深い縁のある方々と共に、こうして貴重な時間を一緒に過ごさせて頂く機会を、今から私は本当に楽しみにしています。あと、高橋竹山氏の津軽三味線!なんかこの二日間、すごいことになりそうな予感がします。みなさんも一緒に参加しませんか?11月、金華山でお会いしましょう!

詳しくはこちらのサイトをご覧ください。

 

あと、もうひとつ、ありました!

来月10月、風カルのチベット講座で「チベット人の人類学」と題して、チベット文化の話をさせて頂きます。場所は東京、10月12日です。実はこのタイトル。半年前、風のお遍路ツアーに参加しているとき、弘法大師の聖地でなにかが降りてきて(!?)急に思いついたもので、今は何を話していいものやらと考えあぐねています(苦笑)。おそらくは、人類学とチベットの民俗信仰の話、最近のラサの話などが中心になると思いますが、もしよろしかったらどうぞお越しください!頑張ってこれから準備します!

詳しくはこちらのサイトをご覧ください。

 

9月11日

(ラサの)天気: 曇り時々雨、時折晴れ間。

(ラサの)気温: 7~18度

(ラサでの)服装: 昼間はフリース、ジャンパーなど。 夜は厚手のフリースなどで軽い防寒を。日焼け対策は必須。空気は非常に乾燥しています。雨具は持ってきたほうがよいでしょう。

 

 

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