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~ 人類学者の徒然なる詩考と猛想 ~

ネオ・バルコル [LHASA・TIBET]

Daisuke Murakamiのチベット駐在日記

三週間ぶりのラサ。

特に変化はない。

が、最近の天気、そして「改造バルコル」はどうしても気になる。

 

 

 

 

連日の雨、雨、雨・・・。

毎日雨が降っている。

とはいっても、一日数時間ほどしか降らないのであまり気にならない、というか、

むしろ暑さがしのげるので大歓迎なのだが、

今年が例年と違うところは、昼間にも雨が降ることが多いことだ。

 

たまに雷雨もある。

それも突発的だ。

 

忘れないようにしよう。

ラサはどんなに経済発展しても、富士山頂と同じ高さにあり、

その天気は山の天気のそれである。

突発的雷雨のその突発性と激しさは、尋常ではない。

ラサに来られるみなさんは、雨具を必ず準備されるように!

 

そ、し、て、ラサの中心街「バルコル」である。

この円環の巡礼路、昨今の大改造により生まれ変わってしまった。

十年以上前のバルコルを知る身としては、綺麗に整備されすぎてしまい、

僕の言葉を使えば「くちゃくちゃ度」(*下記)がすっかり削がれてしまい、

なんともさびしい限りなのである。

 

それでも、よい変化もある。

まず、おススメから紹介しよう。

 

「石碑オタク」という人種が、僕の周りには少なからずいるが、

そいういう人たちが歓喜するような事態になっている。

今から千数百年前、中国の唐とチベットが国境および両者の関係をとりきめた、

<唐蕃会盟碑>が我々にも容易に見れるようになっているのである。

改造前は石壁に囲まれ一部しか拝めなかったものが、今はほぼ全裸である。

 

(ジョカン寺前にある唐蕃会盟碑)

 

過去千年以上にわたって立っているらしいのだが、

チベット語と漢語が併記されており、肉眼でも判別可能な文字も散見する。

原文およびその訳に関心のある方がいれば、

『A corpus of early Tibetan inscriptions』 (Richardson 1985)を見るといいだろう。

(著者であるリチャードソン氏は、半世紀以上前にラサに長期滞在したイギリス人官僚・学者であり、

僕ら現代のチベット研究者たちは大変お世話になっている。僕もファンの一人だ。)

 

そして、この唐蕃会盟碑のすぐ横にも、もうひとつ石碑がある。

数百年前、ラサに流行した天然痘の撲滅を祈念するため、

(また、チベットの風俗を「矯正」したらんとする意図で、)

当時の清朝の役人「アンバン」(下記参照)が建てたものだ。

こちらのほうが千年ほど新しいにも関わらず、字が判読しにくくなっている。

それどころか碑の下方に妙なぼこぼこ穴があけられているのだ。

 

(たくさんの窪みが刻まれた、天然痘の祈念碑)

 

チベットの田舎の聖地などにいくと、ぼこぼこ穴のあけられた巨石に出遭うことがある。

巡礼者たちが、「茶葉が来ますよう、バターがやって来ますよう」などと祈りながら、

小石を使って巨石にたくさんの窪みを穿つ習慣があるのだ。

天然痘の石碑は地元チベット人にとっては、役人の意図を超えて、

「食の安定」という個々の世俗の願いを叶えるための聖石として見なされるようになったようだ。

民俗学的に)なかなか興味深い。

 

「ネオ・バルコル」の紹介を次に進めよう。

バルコルを四分の一ほど周ったところ、ちょうどバルコルの北側にあたる場所に、

えらい豪勢な風貌の建物ができた。

中国清朝の時代、アンバン(駐蔵大臣)と呼ばれる清朝の役人がラサに住んでいたのだが、

彼らがある時期、このバルコルの北側に住居を構えていたのだ。

そしてそこが今月、アンバンの歴史博物館として大々的にオープンした。

 

(アンバンの記念館)

 

僕は早速この博物館を訪れたのだが、不勉強のせいであろう、「新発見の事実」ばかりだった。

また、一緒に行った後輩の歴史研究者が、まるでおこっているかのように顔をふくらませていた。

理由はよく分からないが、おそらくは盛りだくさんの展示内容に興奮し、

心を震わせていたのだろう。きっと自身の研究の刺激になったことだろうと思う。

 

好奇心がはちきれんばかりのみなさんは、ここを訪れてもいいかもしれない。

例によって、入場無料、である。

 

(バルコルにたくさん設置された「タシデレ街灯」)

 

あと、「ネオ・バルコル」の特徴といえば、この街灯だ。

この街灯のデザイン、百歩譲って「蓼食う虫も好き好き」と言いたいところだが、

個人的には全くもって受け入れ難いシロモノである。こいつが何体も設置されている。

 

なにしろ、風景からの「浮き加減」が何とも言えない。

 

おそらくは藝術的にあまりに最先端すぎるせいだろう。

センスゼロの僕は到底ついていけない。

 

(「タシデレ街灯」の下で、五体投地をする巡礼者)

 

岡本太郎太陽の塔も、パリのエッフェル塔も過激すぎて建設当時は理解されなかったが、

後に評価されていくようになった。もしかするとこの新街灯は、

そういった超時代的な藝術作品なのかもしれない・・・。

ということで、これ以上僕の評を述べると後世において恥をかいてしまうので、この辺でやめておく。

 

            * * *

 

ここでは書ききれないほどの、大規模なバルコルの変容。

これからラサに初めて来られるみなさんも、ラサに何度も来られたことのあるみなさんも、

新旧のバルコルの魅力、そしてその他諸々をいろんな角度から満喫されると、

ラサ滞在がきっとより楽しいものになるでしょう。

 

お待ちしています。

(雨具を忘れずに!)

 

Daisuke/Murakami

 

(*)「くちゃくちゃ度」

社会空間的カオス(無秩序)の尺度。それがある程度高いことで、その街の空間に活気とエネルギーと魅力が生まれる。大阪で言えばミナミや天王寺周辺、東京でいえばおそらく新宿付近(?)。つまり「くちゃくちゃ度」の高い空間とは、多様な人気・霊気が交錯し漂う空間であり、いわば「辻」的な場所のことを指す。

 

(部屋の仔猫と親猫)

 

 

 

7月23日

(ラサの)天気: 雲時々雨

(ラサの)気温: 14~20度

(ラサでの)服装: 昼間はシャツ、フリースなど。 夜は(厚手の)フリース、ジャンパーなど。 日焼け対策は必須。 空気は非常に乾燥しています。雨具は持ってきたほうがよいでしょう。また、風も強く吹くことも多いので、マスクなども役立ちます。

 

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