~ 人類学者の徒然なる詩考と猛想 ~

夏と生野菜とチベット人 [LHASA・TIBET]

カァー! アツイ、熱い、暑い!

 

 

 

 

昼間のラサは、暑い!

夏至を迎えたばかりの北半球では、太陽の容赦ないエネルギーが浴びせられている。

緯度が鹿児島の南、そして海抜が富士山頂のラサでは、

そのエネルギー効率たるや、尋常なものではない。

外は熱射病注意報である。

帽子はMUST!

 

そうはいっても、乾燥しているラサ。

日陰などはとっても過ごしやすい。

クーラー要らずで、部屋の中で丸一日快適に過ごせるのは天国ともいえる。

 

それも夕方になると青空は夜雨の予感とともに、真っ青になっていく。

涼しげな空気を含んだ外気に誘われて屋上に出ると、

青がどんどん強く、そして異様なほど濃くなっていき、

雲の中に空の青が滲み入っていくのが見える。

青が本当に強いのだ。

 

極上は、雨後。

この群青色の世界たるや、まるで身心の一粒一粒が浄化されていくようだ・・。

こうした深くて濃い青空の広がるチベットでは、

病気をやわらげてくれる薬師如来の体が群青色に彩られるのも、

決して偶然ではないような気がしてくる。

 

sky

(写真では分かりにくいかもしれないが、「青」が雲に溶けこんでいく。)

 

さて、今日の話題は生野菜!であるが、

このところ僕は、炎天下の中、昼間はわざわざポタラ裏まで歩いていき、

水餃子を食べに行くことが多い。お気に入りの店があるのである。

その前菜としていつもオーダーしているのが、

大拉皮(たーらーぴー)!

見た目はちょいと悪いが、生野菜+ところてんにゴマだれやお酢、

そして軽く唐辛子で味付けしたもので、これがまた美味しい。

これはチベット料理ではなく、中国の東北地方のものであるのだが、

真夏の中、生野菜の感触に飢えた者には、これは甘露級の食べ物といえよう。

 

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(大拉皮 [たーらーぴー]。大陸冷麺?のような味。)

 

だが、この甘露級の食べ物に対して、伝統的に、

食欲があまりわかない民族がいる。

そう、チベット民族である。

 

これは、我々の感覚で敢えて喩えるならば、

樹皮や芝生に食欲を覚えるのが難しいのと似ているかもしれない。

 

チベット人、特に遊牧民たちの考えでは、

(生)野菜を食べるのは家畜であり、人間は肉(と穀物と乳製品)、と決まっている。

生得的に、そして、文化的に。

遊牧民たちが都会のラサ人や漢民族を見ての、謂れがひとつある。

 

「こいつら、それぞれ草にそれぞれ名前をつけて、食べよるー」。

 

名前をつけることは対象を支配し、馴れ親しい存在に変化させることであり、

この遊牧民の謂われは、そこを無意識についたものである。

野菜=草という家畜の餌を、人間の食べ物にするために、

ひとつひとつ名前を与えていると。

名前を与えて、美味しく見せていると。

本当は、牛や豚など家畜の餌に過ぎないものを。

 

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(バルコル近くのヤク肉を売る屋台。)

 

そういえば、僕の日本人の知り合いでひとつ話がある。

彼の嫁はチベット人の女性だが、初めて彼女を連れて日本の実家に行った時のこと。

お父さん、お母さんへ挨拶をし、そしていよいよ皆で夕ご飯を食べるというとき、

お母さんはおもむろに食卓の上にサラダを出したのである!

 

当然、チベットの田舎出身の彼女はそのとき、とても悲しい気持ちになったそうである。

生野菜を出すなんて、私達二人の結婚に反対しているに違いない!と。

 

日本(横浜)に長年住んだ彼女は今では、サラダ大好きチベット人になったようだが、

この最初のサラダとの対面は、ひじょ~にショックだったと、

笑いながら語ってくれたのを覚えている。

 

また、つい先日のことだが、

チベットのある悪霊祓いの祈祷書を精読していた。

その中に実に興味深い一節があったので紹介する。

悪霊を祓う上で様々な醜い衣類や携帯物を、ラマが与えるシーンである。

 

・・・

悪霊よ、お前に食べ物がないのなら、

出涸らしの茶葉を食べ物とせよ!

(人間の)食べかす、残りかすを食べ物とせよ!

緑の生野菜を食べ物とせよ!

これらを食べながら、消え失せよ!

あっち(の世界)へ還れ!

・・・

 

なんともはや。

生野菜は、忌むべき悪霊の卑しい食べ物として登場していたのである。

マイナーな祈祷書にまで、<劣等食物>扱いされるとは・・。

 

 

実はここ5~7年ほど、ラサ人の間で菜食ブームが出てきており、

肉食をできるだけ絶つ傾向にはあるが、火の通った野菜料理は食べれても、

生の野菜には抵抗のあるチベット人はまだ多いように思われる。

 

夏の甘露級の食べ物への道は、遊牧民はまだまだ遠いかもしれない(笑)。

が、仏教の教えから肉食はできるだけ絶つように、と

積極的に言われ始めている(そして積極的に教えに沿おうとしている)今日この頃、

近い将来、大草原のテントの傍らで、

生野菜の宴をしているシーンを見かけることがあるかもしれない。

シュールレアリズムの世界のようで、相当違和感を感じるが(笑)。

 

Daisuke/Murakami

 

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(鍵を開けようとする肉食仔猫。日本の極上猫餌はこの中に入っているのか・・?)

 

6月30日

(ラサの)天気: くもり時々晴れ(夜は雨も降ること多し)

(ラサの)気温: 14~27度(昼間は相当暑いです)

(ラサでの)服装: 昼間はシャツ、Tシャツ、フリースなど。 夜はフリース、ジャンパーなど。 日焼け対策は必須。帽子は被ったほうがいいです。空気は非常に乾燥しています。雨期なので雨具も忘れずに。

 

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