~ 人類学者の徒然なる詩考と猛想 ~

魂の樹、旧友来訪、チベット語の真言を台湾で歌う日本人女性歌手 [LHASA・TIBET]

先日、日本の友人がふたり、ラサに遊びに来た。

 

 

 

 

僕は今チベットに住み、文化論のようなものを書いたりしているが、

実は日本の大学にいるときは全くの理系であった。

名古屋大学で「応用物理」学科という、なんだかごった煮の感じのするところで、

フツーに理系学生をしていたのである。

(とはいっても、あまり授業には出ていなかったが;笑)

 

今回ラサに来てくれたのは、当時の同期である。

あの時は、スキーに行ったり、実験をしたり、

大学の総合図書館前で(イチャイチャしている文系カップルを蹴散らすために)

「理系男鍋」を度々したぐらいで、

とりたてて特別な何かを一緒にやったわけではないような気がするが、

今まで二十年近く付き合っていたということは、

お互い何らかを感じていたのかもしれない。

 

ふたりは、日本を代表する製造業、

かたや僕は、明日をも知れぬ人類学業の道を進み、

生きる方向がまったく180度違ってしまったが(笑)。

 

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(シュクセ尼僧院の上方からの眺め)

 

さて今回は、

わざわざチベットに来てくれたのに、ラサだけではとてももったいないと思い、

風の「知られざるラサ」ツアーにも含まれているシュクセの尼寺に行ってきた。

 

ここは、やはり、特別な場所である。

約一千年前、ニンマ派の行者が開いたとされる修行場で、

多くの聖跡が残る聖地でもあるのだが、特に信心深いチベット仏教徒でなくても、

またチベット仏教のことについて一切知らずとも、

この場所に立っているだけで、特別な感覚が内側からこみ上げてくる。

 

行場のある谷奥から下方に向けて、視線が自然に向くようになっている。

ラサを流れるキチュ河(「悦びの水」の意)が青く光っているのが遠方に見える。

さらに視線を遠くにやる。

すると、聖山ノジンカンサン(標高約7,200㍍)の白い尖がりが

はっきりと遥拝できる。

「<遠く>を、この場で感じる」という、聖地には欠かせない要素がここにはある。

 

その雄大な大地の上を<虚空の青の世界>― 僕はチベットの青空をよくこう呼ぶ ― 

で蓋い尽くされたあとに残るのはもう、<こころ>しかないのである。

自分の<こころ>との対面以外には、なんの逃げ道も許されない、「開けの空間」。

 

うまく言語化できないが、とにかくこういう感じである。

 

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(手前はラフラの魂が宿る古樹、奥はラフラのお顔の描かれた魂石)

 

シュクセ尼僧院の上方をさらに一時間ほど登っていくと、

そこにはニンマ派の大聖人ロンチェン・ラブジャンパの瞑想窟がある。

そしてその窟のそばに、古い巨木の一部分が無造作にどかんと置かれているが、

カタ(白スカーフ)がかけてあることから、ただの樹ではないことが誰の目にも分かる。

 

14世紀、ロンチェン・ラブジャンパは、ニンマ派の教義を集大成させ、

大経典に残したことで著名な行者である。

彼がその経典を書く際に使った竹ペンは、ラフラという名の護法神が献上したという。

ラブジャンパがその経典を書き終わり、ペンを地上に刺したところ、

そこから樹がむくむくと「自然発生」したという伝説が残っている。

何百年もの間この樹は崇められていたが、文革の時に無残にも切り倒された。

そのとき、その樹の切れ目から「血がほとばしり出た」という。

 

そう、この古樹には荒ぶる神ラフラの魂が宿っているのだ。

血はもちろん「出た」し、ラフラは大変な激痛を被ったであろうし、

それでも彼の魂はこの樹に宿り続けている。

 

無残な古樹の姿を見て、ラフラの痛みにシンパシーを感じることで、

チベット人巡礼者たちはこの神と感応するのである。

 

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(伊藤佳代ニューアルバム、『摩利支天の真言』)

 

さて、

全く話は飛ぶが、

今回ラサに来た僕の友人の妹が、実は台湾で歌手として活躍されているのだ!

それもチベット語真言を歌われている。

(なんたる偶然!)

彼女の名は、伊藤佳代さん。

 

ご本人は日本にいるとき演劇を少し勉強されていたそうだが、歌手経験はない。

台湾留学中に偶然の縁で認められ、ふとしたことからチベット仏教真言

歌うことになり、それ以来約十年ずっとチベット一筋みたいである。

どうやら、台湾のチベット・マニアの間で広く支持があるとか。

 

僕も聴いてみたが、優しい歌声であった。

好きな音楽の幅の狭そうな(?)チベット人には、ちょっと難しいかも・・

と正直思ったが(例えば、チベット音楽には、「ヒーリング」とか

「リラクシンング」というジャンルは皆無であろう)、

台湾人仏教徒のこころに響いているようである。

 

ご本人にメールで尋ねると、どうやら伊藤さんの歌われる曲は、

<仏教音楽>というジャンルに入るようで、日本ではまだまだ新しい領域だという。

それにしても、日本人で、チベット仏教真言を歌い、台湾人に支持される女性とは・・!

今後の彼女の活躍がとても楽しみである。

 

 

また今日も長々と日記を書いてしまった。

今晩も、羽田から友人が買ってきてくれたウイスキーを飲むとするか!

 

Daisuke/Murakami

 

* 冬のラサ旅行の準備はこのページをご参照に!

 

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(背伸びをするシロ)

 

11月30日

(ラサの)天気: 快晴

(ラサの)気温: -4~14度 (寒暖差に注意!) 

(ラサでの)服装: 厚手のフリース、ダウン、コートなど。晴れの日は日差しがとてもきつくなるので、日焼け対策は必須。空気は非常に乾燥しています。この季節、雨は降ることは少ないですが、雨具は念のため持ってきたほうがいいでしょう。

 

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